460.ムナーリと出版社 ― 2025年12月12日 18:29
東京都現代美術館で開催された「TOKYO ART BOOK FAIR 2025」の会場でイタリアのコライーニ社から来日したフランチェスコ・コスタさんの講演を聴いてきました。
内容は主に1970年代後半から最晩年まで続いたコライーニ社とムナーリの関わりと、コライーニ社が復刻しているムナーリ最初期の絵本「1945シリーズ」の紹介でした。
ムナーリと出版社の関わりを調べてみると、それぞれ時代ごとにムナーリには彼のアイデアと才能を理解する出版社との出会いがありました。 ムナーリが最初に出版デザインを手掛けたのは1929年アンブロジャーナ社の絵本『ワシのひな』の挿絵だった、とムナーリの書誌研究者マッフェイがまとめています。
ムナーリは戦前から戦中にかけてモンダドーリ社のアートディレクターとして働き、「1945シリーズ」の絵本もオリジナル版はモンダドーリ社から出版されています。
戦後、1960年代にはエイナウディ社との仕事からロダーリとのコラボレーションが始まっています。またムナーリが企画監修した新しい子供のための本のシリーズ「タンティ・バンビーニ」もエイナウディ社での企画会議から生まれたとのこと。
また1960年代から晩年にかけて、教育に関する著書はラテルツァ社とザニケッリ社によるものが多いようです。
その他にも、出版社というより工業製品のメーカーですが、ダネーゼ社とのコラボレーションによって数々の生活用品とともに「プラス・マイナス」のような教育玩具や、「プレリブリ」のような画期的な「子どものための本の形をしたオブジェ」が世に送り出されました。
1970年代後半、マントヴァで現代美術の画廊を運営していたコライーニ社との仕事が始まり、コライーニ社はアート系出版社としてムナーリ晩年のもっとも緊密な協働のパートナーとなりました。
ムナーリが過去に発表した著書の復刻も多くはコライーニ社が手がけるようになり、没後の肖像権管理や著作権についてもコライーニ社が大きな役割を持っていると聞いています。
イタリアでは、デザイナーが企業のトップと直接やり取りをしながら仕事をするケースが少なくありません。この傾向は家具やプロダクトデザインに顕著ですが、出版デザインについても、少なくともムナーリは各出版社の経営者から厚い信頼を得て、それぞれの出版社に合わせた提案を行なったものと考えられます。
内容は主に1970年代後半から最晩年まで続いたコライーニ社とムナーリの関わりと、コライーニ社が復刻しているムナーリ最初期の絵本「1945シリーズ」の紹介でした。
ムナーリと出版社の関わりを調べてみると、それぞれ時代ごとにムナーリには彼のアイデアと才能を理解する出版社との出会いがありました。 ムナーリが最初に出版デザインを手掛けたのは1929年アンブロジャーナ社の絵本『ワシのひな』の挿絵だった、とムナーリの書誌研究者マッフェイがまとめています。
ムナーリは戦前から戦中にかけてモンダドーリ社のアートディレクターとして働き、「1945シリーズ」の絵本もオリジナル版はモンダドーリ社から出版されています。
戦後、1960年代にはエイナウディ社との仕事からロダーリとのコラボレーションが始まっています。またムナーリが企画監修した新しい子供のための本のシリーズ「タンティ・バンビーニ」もエイナウディ社での企画会議から生まれたとのこと。
また1960年代から晩年にかけて、教育に関する著書はラテルツァ社とザニケッリ社によるものが多いようです。
その他にも、出版社というより工業製品のメーカーですが、ダネーゼ社とのコラボレーションによって数々の生活用品とともに「プラス・マイナス」のような教育玩具や、「プレリブリ」のような画期的な「子どものための本の形をしたオブジェ」が世に送り出されました。
1970年代後半、マントヴァで現代美術の画廊を運営していたコライーニ社との仕事が始まり、コライーニ社はアート系出版社としてムナーリ晩年のもっとも緊密な協働のパートナーとなりました。
ムナーリが過去に発表した著書の復刻も多くはコライーニ社が手がけるようになり、没後の肖像権管理や著作権についてもコライーニ社が大きな役割を持っていると聞いています。
イタリアでは、デザイナーが企業のトップと直接やり取りをしながら仕事をするケースが少なくありません。この傾向は家具やプロダクトデザインに顕著ですが、出版デザインについても、少なくともムナーリは各出版社の経営者から厚い信頼を得て、それぞれの出版社に合わせた提案を行なったものと考えられます。
457.「デザインの先生」展@21_21 DESIGN SITE ― 2025年11月15日 21:01
六本木(乃木坂)の新国立美術館へ出かけた道すがらミッドタウンのデザインサイトの前で来週から会期が始まる「デザインの先生」展のポスターを見かけました。
「デザインの先生」@21_21 DESIGN SITE
ブルーノ・ムナーリ、アッキーレ・カスティリオーニ、エンツォ・マリ、マックス・ビル、オトル・アイヒャー、ディーター・ラムスという20世紀の(主に)工業デザイン、生活デザイン分野の巨匠をまとめて取り上げる、という企画のようです。 会期は2025年11月21日から2026年3月8日までとのこと、ムナーリを含めどのようなまとめ方で見せてくれるのかが楽しみです。
「デザインの先生」@21_21 DESIGN SITE
ブルーノ・ムナーリ、アッキーレ・カスティリオーニ、エンツォ・マリ、マックス・ビル、オトル・アイヒャー、ディーター・ラムスという20世紀の(主に)工業デザイン、生活デザイン分野の巨匠をまとめて取り上げる、という企画のようです。 会期は2025年11月21日から2026年3月8日までとのこと、ムナーリを含めどのようなまとめ方で見せてくれるのかが楽しみです。
456.ブルーノ・ムナーリ展 美術に出会う前の美術 ― 2025年11月06日 18:16
「ブルーノ・ムナーリ展 美術に出会う前の美術」という展覧会が米沢市上杉博物館で11月末から来年1月まで開催されるとのお知らせをいただきました。
「ブルーノ・ムナーリ展 美術に出会う前の美術」
会 期:11月29日(土)~令和8年1月25日(日)
◇休館日:毎週月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始(12/27~1/1)
開館時間:9:00~17:00(入館は16:30まで)
主 催:米沢市上杉博物館
企画協力: 日本ブルーノ・ムナーリ研究会、NPO市民の芸術活動推進委員会
後 援: イタリア大使館、一般社団法人日本芸術教育学会、山形新聞・山形放送
料 金:一般590円(470円) 高大生190円(150円) 小中生無料 ※()内は20名以上の団体
見るところ、旧「こどもの城」のムナーリコレクションの巡回展のようで、おそらく本年、広島県で開催されたムナーリ展と連携しているのではないでしょうか。
「ブルーノ・ムナーリ展 美術に出会う前の美術」
会 期:11月29日(土)~令和8年1月25日(日)
◇休館日:毎週月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始(12/27~1/1)
開館時間:9:00~17:00(入館は16:30まで)
主 催:米沢市上杉博物館
企画協力: 日本ブルーノ・ムナーリ研究会、NPO市民の芸術活動推進委員会
後 援: イタリア大使館、一般社団法人日本芸術教育学会、山形新聞・山形放送
料 金:一般590円(470円) 高大生190円(150円) 小中生無料 ※()内は20名以上の団体
見るところ、旧「こどもの城」のムナーリコレクションの巡回展のようで、おそらく本年、広島県で開催されたムナーリ展と連携しているのではないでしょうか。
453.アルテ・プログランマータの展覧会 ― 2025年10月07日 19:33
東京のイタリア文化会館で、「アルテ・プログランマータ」の芸術家アルヴィアーニ(19339-2018)の展示があると告知を見つけて行ってきました。
ジェトゥーリオ・アルヴィアーニ展「反射する光」
リンクに紹介された芸術科アルヴィアーニの経歴を引用します:
ジェトゥーリオ・アルヴィアーニは、アルテ・プログランマータとキネティック・アートの分野で活躍した、20世紀イタリアを代表する芸術家です。本展覧会では、有名な「振動するテクスチャーの表面」や「鏡像による相互関係」に加え、1970/80年代に行われた幾何学・色彩に関する実験的試みに至るまで約50作品を展示し、彼の芸術的探求の軌跡を辿ります。 厳格かつ理論家で、常に新しい手法や実験を求めたアルヴィアーニは、視覚による認識の境界を押し広げることで、鑑賞者自身を作品の一部に変える手法を得意としていました。分野に囚われない彼のアプローチによって、芸術と科学、建築とデザインが深く対話するのです。
「アルテ・プログランマータ」といえばムナーリがその活動に参加し作品を発表していた、1960年代イタリアのキネティック・アートを主とした芸術活動で、アルヴィアーニについては不明にして今日まで知る機会がなかったのですが、やはりムナーリと一緒に芸術活動をしていたことが記録に残っています。
…と、物知り顔で書いてみたものの勉強不足な分野でもあり、いずれ改めて調べてみたいと思います。。。
ジェトゥーリオ・アルヴィアーニ展「反射する光」
リンクに紹介された芸術科アルヴィアーニの経歴を引用します:
ジェトゥーリオ・アルヴィアーニは、アルテ・プログランマータとキネティック・アートの分野で活躍した、20世紀イタリアを代表する芸術家です。本展覧会では、有名な「振動するテクスチャーの表面」や「鏡像による相互関係」に加え、1970/80年代に行われた幾何学・色彩に関する実験的試みに至るまで約50作品を展示し、彼の芸術的探求の軌跡を辿ります。 厳格かつ理論家で、常に新しい手法や実験を求めたアルヴィアーニは、視覚による認識の境界を押し広げることで、鑑賞者自身を作品の一部に変える手法を得意としていました。分野に囚われない彼のアプローチによって、芸術と科学、建築とデザインが深く対話するのです。
「アルテ・プログランマータ」といえばムナーリがその活動に参加し作品を発表していた、1960年代イタリアのキネティック・アートを主とした芸術活動で、アルヴィアーニについては不明にして今日まで知る機会がなかったのですが、やはりムナーリと一緒に芸術活動をしていたことが記録に残っています。
…と、物知り顔で書いてみたものの勉強不足な分野でもあり、いずれ改めて調べてみたいと思います。。。
449.ミラノ・クリエイティブ・ラーニング・フェスティバル ― 2025年08月09日 15:35
2025年10月10日と11日に、ミラノにある科学博物館で「クリエイティブ・ラーニング・フェスティバル」というイベントが予定されているという情報が入りました。
各国からゲストスピーカーを招くほか、ムナーリのお弟子さんであるレステッリさんやレッジョ・エミリアの関係者も登壇するとのこと、日本からはベストセラー絵本『100かいだてのいえ』の作者でアーティストの岩井俊雄さんが参加されるそうです。
CREATIVE LEARNING FESTIVAL
Il Museo organizza la prima edizione del Festival dedicato all’apprendimento creativo, in collaborazione con i fondatori del Tinkering Studio all’Exploratorium di San Francisco e il Lifelong Kindergarten Group al MIT Media Lab Boston. Il Festival è realizzato in partnership con Bolton for Education Foundation.
(ミラノ・レオナルド・ダ・ヴィンチ科学)博物館は、サンフランシスコ・エクスプロラトリアムのティンカリング・スタジオの創設者たちと、ボストンのMITメディアラボにあるライフロング・キンダーガーデン・グループと協力し、創造的な学習をテーマにしたフェスティバルの第一回目を開催します。 このフェスティバルは、ボルトン・フォー・エデュケーション財団とのパートナーシップで実施されます。 L’evento è gratuito e si rivolge a insegnanti di scuole di ogni ordine e grado, docenti in formazione, educatori ed educatrici degli adulti, del terzo settore, che operano in biblioteche, musei e altri contesti di educazione informale. In programma due giornate di workshop, conferenze e momenti di dialogo con l’obiettivo di offrire un’opportunità di riflessione condivisa sul ruolo della creatività nell'apprendimento, in particolare in ambito STEAM, come strumento potente per promuovere le competenze di ogni individuo e lo sviluppo di una cittadinanza attiva e sostenibile.
このイベントは無料で、小学校から高校までの学校の教員、教員養成中の教員、成人教育者、第三セクターの教育者(図書館、博物館、その他の非公式な教育環境で活動する者)を対象としています。 2日間のワークショップ、講演、ディスカッションのプログラムを通じて、特にSTEAM分野における創造性の役割について、個々のスキル向上と持続可能な市民社会の形成を促進する強力なツールとしての可能性を共有する機会を提供することを目的としています。
事務局に問い合わせをしてみたのですが、残念なことに現時点ではオンライン配信などの予定はないということです。もっとも、まだ準備中のようですのでもうすこし期待してみたいと思います。。。
各国からゲストスピーカーを招くほか、ムナーリのお弟子さんであるレステッリさんやレッジョ・エミリアの関係者も登壇するとのこと、日本からはベストセラー絵本『100かいだてのいえ』の作者でアーティストの岩井俊雄さんが参加されるそうです。
CREATIVE LEARNING FESTIVAL
Il Museo organizza la prima edizione del Festival dedicato all’apprendimento creativo, in collaborazione con i fondatori del Tinkering Studio all’Exploratorium di San Francisco e il Lifelong Kindergarten Group al MIT Media Lab Boston. Il Festival è realizzato in partnership con Bolton for Education Foundation.
(ミラノ・レオナルド・ダ・ヴィンチ科学)博物館は、サンフランシスコ・エクスプロラトリアムのティンカリング・スタジオの創設者たちと、ボストンのMITメディアラボにあるライフロング・キンダーガーデン・グループと協力し、創造的な学習をテーマにしたフェスティバルの第一回目を開催します。 このフェスティバルは、ボルトン・フォー・エデュケーション財団とのパートナーシップで実施されます。 L’evento è gratuito e si rivolge a insegnanti di scuole di ogni ordine e grado, docenti in formazione, educatori ed educatrici degli adulti, del terzo settore, che operano in biblioteche, musei e altri contesti di educazione informale. In programma due giornate di workshop, conferenze e momenti di dialogo con l’obiettivo di offrire un’opportunità di riflessione condivisa sul ruolo della creatività nell'apprendimento, in particolare in ambito STEAM, come strumento potente per promuovere le competenze di ogni individuo e lo sviluppo di una cittadinanza attiva e sostenibile.
このイベントは無料で、小学校から高校までの学校の教員、教員養成中の教員、成人教育者、第三セクターの教育者(図書館、博物館、その他の非公式な教育環境で活動する者)を対象としています。 2日間のワークショップ、講演、ディスカッションのプログラムを通じて、特にSTEAM分野における創造性の役割について、個々のスキル向上と持続可能な市民社会の形成を促進する強力なツールとしての可能性を共有する機会を提供することを目的としています。
事務局に問い合わせをしてみたのですが、残念なことに現時点ではオンライン配信などの予定はないということです。もっとも、まだ準備中のようですのでもうすこし期待してみたいと思います。。。
448.ムナーリの教育への思い ― 2025年07月21日 21:01
1986年のムナーリへのインタビュー記録の中に、ムナーリの子どものための教育にかける思いについての発言を発見しました。
インタビューされた時期は、ちょうど1985年に日本でのワークショップを指導した翌年ということになります。
INTERVISTA Bruno Munari con Luciano Marucci, 1986 (pdf)
アクセス:2025年7月20日
(Domanda) Hai rivolto molte attenzioni anche ai bambini per svilupparne la fantasia e avviarli alla creatività ed hai fornito strumenti operativi agli insegnanti per estendere il messaggio. È un ulteriore tentativo per costruire un nuovo mondo,ma anche una sfiducia verso gli adulti ormai condizionati?
(問)子どもたちのファンタジアを伸ばし創造性を発揮させるために、あなたは子どもたちに多くの注意を払い、そのメッセージを広げるために教師たちへ教育ツールを提供しました。これは新しい世界を築こうとする試みであると同時に、すでに条件づけられてしまった大人たちへの不信感でもあるのでしょうか?
(munari) Il famoso psicologo Piaget ha detto che non si può cambiare la mentalità di un adulto. Io ho tenuto diversi incontri e conferenze a livello universitario, in scuole medie, in scuole elementari e adesso, finalmente, sono arrivato alla scuola materna. È lì che bisogna operare,altrimenti i bambini sono già condizionati a un pensiero distorto, a un pensiero chiuso; sono soffocati nelle loro possibilità creative e fantastiche. Quindi, se si vuole cambiare la società, è proprio lì che si deve operare per sperare in un mondo migliore fra qualche generazione.
(答)かの有名な心理学者ピアジェは、大人のメンタリティを変えることはできないと言いました。私はこれまで、大学、中学校、小学校、そして、ようやく幼稚園でも、ミーティングや講演を行ってきました。此処(子どもの世界)こそ働くべき場であり、さもなければ子どもたちは、すでに歪んだ思考や閉ざされた思考をするよう仕向けられてしまいます。社会を変えたいのであれば、数世代後の世界をより良いものにするためには、此処(子どもの世界)で活動しなければなりません。
ムナーリは、さかのぼると1974年にイタリアの建築デザイン雑誌「ドムス」に「幼稚園から始めるデザインの学校の提案(PROPOSTA PER UNA SCUOLA DESIGN CHE COMINCIA DALL’ASILO, Domus 538 sept. 1974)」と題した提案を発表し、また、冒頭に紹介したものとほぼ同じ社会観・教育観について、1981年に出版された『ブレラ美術館での子どものためのワークショップ(Il laboratorio per bambini a Brera, Bruno Munari, 1981, Zanichelli)』の中でも述べています。
CREATIVITÀ DELL'INFANZIA
Un individuo creativo è un individuo che realizza se stesso nella società in cui vive. Si sa che la creatività può essere orientata in molti sensi e campi delle attività umane. ln quest'articolo si cerca di vedere se è possibile stimolare la creatività artistica come mezzo di comunicazione visiva tra gli individui.
Sembra evidente che questa stimolazione va applicata alla prima infanzia, mentre l'individuo sta formando la propria personalità e costruendo i suoi rapporti col mondo che lo circonda. Una stimolazione della creatività su individui di età più avanzata può incontrare blocchi mentali ormai fissati che impediscono la liberazione di queste forze individuali. Sono ben note la difficoltà d'intesa con persone anziane e la loro incapacità d'interpretare certe forme artistiche o di comunicazione visiva proprio per una formazione mentale bloccata su preconcetti che impediscono la comprensione di espressioni diverse da quelle da esse conosciute. Sono numerose le persone che educate alla musica occidentale non capiscono quella orientale come se anche questa non fosse espressione umana, sia pure espressione di culture di uomini di origine diversa.
子どもの創造性
創造的な個人とは、自分が生きている社会の中で自分を実現できる個人のことである。創造性は、人間の活動の多面的な感覚や分野で方向づけられることが知られている。本稿では個々人間の視覚的なコミュニケーションの手段として、芸術的な創造性を刺激することができるかの考察を試みる。
この刺激は、個人が自分の個性を形成し周囲の世界との関係を構築している時期、幼児期に適用されるべきであることは明らかである。年長者(高齢者)への創造性の刺激は、すでに固定され個々の力の解放を妨げる精神的なブロックに遭遇する可能性が高い。年長者(高齢者)の理解の困難さや特定の形態の芸術や視覚的コミュニケーションを解釈できないことは、先入観に阻まれた精神的な形成により知られている表現以外の表現を理解できないことが原因であること知られている。西洋音楽によって教育された人には、まるで同じ人間の表現ではないかのように、起源の異なる人間文化の表現である東洋音楽を理解できない人が多い。
芸術家、表現者、デザイナーとしてのムナーリは、生涯変幻自在に多様な分野でさまざまな実験を展開していますが、こと子どものための教育について、そして人間の創造性に対する信念にもとづく活動は、生涯変わることなく追求され続けたことが読み取れます。。。
インタビューされた時期は、ちょうど1985年に日本でのワークショップを指導した翌年ということになります。
INTERVISTA Bruno Munari con Luciano Marucci, 1986 (pdf)
アクセス:2025年7月20日
(Domanda) Hai rivolto molte attenzioni anche ai bambini per svilupparne la fantasia e avviarli alla creatività ed hai fornito strumenti operativi agli insegnanti per estendere il messaggio. È un ulteriore tentativo per costruire un nuovo mondo,ma anche una sfiducia verso gli adulti ormai condizionati?
(問)子どもたちのファンタジアを伸ばし創造性を発揮させるために、あなたは子どもたちに多くの注意を払い、そのメッセージを広げるために教師たちへ教育ツールを提供しました。これは新しい世界を築こうとする試みであると同時に、すでに条件づけられてしまった大人たちへの不信感でもあるのでしょうか?
(munari) Il famoso psicologo Piaget ha detto che non si può cambiare la mentalità di un adulto. Io ho tenuto diversi incontri e conferenze a livello universitario, in scuole medie, in scuole elementari e adesso, finalmente, sono arrivato alla scuola materna. È lì che bisogna operare,altrimenti i bambini sono già condizionati a un pensiero distorto, a un pensiero chiuso; sono soffocati nelle loro possibilità creative e fantastiche. Quindi, se si vuole cambiare la società, è proprio lì che si deve operare per sperare in un mondo migliore fra qualche generazione.
(答)かの有名な心理学者ピアジェは、大人のメンタリティを変えることはできないと言いました。私はこれまで、大学、中学校、小学校、そして、ようやく幼稚園でも、ミーティングや講演を行ってきました。此処(子どもの世界)こそ働くべき場であり、さもなければ子どもたちは、すでに歪んだ思考や閉ざされた思考をするよう仕向けられてしまいます。社会を変えたいのであれば、数世代後の世界をより良いものにするためには、此処(子どもの世界)で活動しなければなりません。
ムナーリは、さかのぼると1974年にイタリアの建築デザイン雑誌「ドムス」に「幼稚園から始めるデザインの学校の提案(PROPOSTA PER UNA SCUOLA DESIGN CHE COMINCIA DALL’ASILO, Domus 538 sept. 1974)」と題した提案を発表し、また、冒頭に紹介したものとほぼ同じ社会観・教育観について、1981年に出版された『ブレラ美術館での子どものためのワークショップ(Il laboratorio per bambini a Brera, Bruno Munari, 1981, Zanichelli)』の中でも述べています。
CREATIVITÀ DELL'INFANZIA
Un individuo creativo è un individuo che realizza se stesso nella società in cui vive. Si sa che la creatività può essere orientata in molti sensi e campi delle attività umane. ln quest'articolo si cerca di vedere se è possibile stimolare la creatività artistica come mezzo di comunicazione visiva tra gli individui.
Sembra evidente che questa stimolazione va applicata alla prima infanzia, mentre l'individuo sta formando la propria personalità e costruendo i suoi rapporti col mondo che lo circonda. Una stimolazione della creatività su individui di età più avanzata può incontrare blocchi mentali ormai fissati che impediscono la liberazione di queste forze individuali. Sono ben note la difficoltà d'intesa con persone anziane e la loro incapacità d'interpretare certe forme artistiche o di comunicazione visiva proprio per una formazione mentale bloccata su preconcetti che impediscono la comprensione di espressioni diverse da quelle da esse conosciute. Sono numerose le persone che educate alla musica occidentale non capiscono quella orientale come se anche questa non fosse espressione umana, sia pure espressione di culture di uomini di origine diversa.
子どもの創造性
創造的な個人とは、自分が生きている社会の中で自分を実現できる個人のことである。創造性は、人間の活動の多面的な感覚や分野で方向づけられることが知られている。本稿では個々人間の視覚的なコミュニケーションの手段として、芸術的な創造性を刺激することができるかの考察を試みる。
この刺激は、個人が自分の個性を形成し周囲の世界との関係を構築している時期、幼児期に適用されるべきであることは明らかである。年長者(高齢者)への創造性の刺激は、すでに固定され個々の力の解放を妨げる精神的なブロックに遭遇する可能性が高い。年長者(高齢者)の理解の困難さや特定の形態の芸術や視覚的コミュニケーションを解釈できないことは、先入観に阻まれた精神的な形成により知られている表現以外の表現を理解できないことが原因であること知られている。西洋音楽によって教育された人には、まるで同じ人間の表現ではないかのように、起源の異なる人間文化の表現である東洋音楽を理解できない人が多い。
芸術家、表現者、デザイナーとしてのムナーリは、生涯変幻自在に多様な分野でさまざまな実験を展開していますが、こと子どものための教育について、そして人間の創造性に対する信念にもとづく活動は、生涯変わることなく追求され続けたことが読み取れます。。。
447. Bruno Munari Archivi ― 2025年07月10日 19:39
「Bruno Munari Archivi」なるウェブサイトを発見しました。
どうやら最近になって立ち上げられたもののようですが、明らかにイタリアの公式なムナーリに関するアーカイブサイトです。
Bruno Munari Archivi
コミッショナーおよびパートナーのページに名を連ねているのは、ムナーリのお孫さんヴァレリアさんをはじめ、出版社のコッライーニはもちろん、ムナーリ研究者として高名なメネグッツォ、またムナーリの教育活動に関わってきたレステッリさん、デツァーニさん、スペラーティさんを含め怱々たる方々です。
あらためてイタリアでは新たなムナーリ研究の機運が、ムナーリと直接ご縁のあった人たちによって拓かれているのかも、と考えると期待が生まれます。。。
どうやら最近になって立ち上げられたもののようですが、明らかにイタリアの公式なムナーリに関するアーカイブサイトです。
Bruno Munari Archivi
コミッショナーおよびパートナーのページに名を連ねているのは、ムナーリのお孫さんヴァレリアさんをはじめ、出版社のコッライーニはもちろん、ムナーリ研究者として高名なメネグッツォ、またムナーリの教育活動に関わってきたレステッリさん、デツァーニさん、スペラーティさんを含め怱々たる方々です。
あらためてイタリアでは新たなムナーリ研究の機運が、ムナーリと直接ご縁のあった人たちによって拓かれているのかも、と考えると期待が生まれます。。。
446.「アートであそぼう ブルーノ・ムナーリ展」@広島県ふくやま美術館 ― 2025年07月05日 23:34
広島県福山市のふくやま美術館で、2025年7月12日から9月15日までムナーリの展覧会が開催されていることを、なら歴史文化芸術村の松長大樹さんから教えて頂きました。
「アートであそぼう ブルーノ・ムナーリ展」広島県ふくやま美術館
ムナーリの作品展示だけでなく、各種ワークショップなども開催されるようで、東京にあった「こどもの城」の岩崎清先生(1985年のムナーリ来日に尽力された方です)が登壇されるとのことです。 近年は日本でムナーリの展覧会がなく寂しい日々でしたが、久しぶりの嬉しいニュースです。
「アートであそぼう ブルーノ・ムナーリ展」広島県ふくやま美術館
ムナーリの作品展示だけでなく、各種ワークショップなども開催されるようで、東京にあった「こどもの城」の岩崎清先生(1985年のムナーリ来日に尽力された方です)が登壇されるとのことです。 近年は日本でムナーリの展覧会がなく寂しい日々でしたが、久しぶりの嬉しいニュースです。
445.ブルーノ・ムナーリ・メソッドⓇのいま ― 2025年06月05日 16:14
ムナーリの子息アルベルト・ムナーリ教授の没後、イタリアのブルーノ・ムナーリ協会(ABM)代表を務めているスペラーティさんが「スタジオ…ブルーノ・ムナーリ」というウェブサイトを開設しています。
(「スタジオ・」ではなく「スタジオ…」となっているのには、何か意味があるのかもしれません)
「スタジオ…ブルーノ・ムナーリ」
スペラーティさんは数年前にも日本のTV番組を通じてムナーリ・メソッドⓇのワークショップを日本で実施されていました。
ムナーリ本人のワークショップに長年協力し、ムナーリ没後に協会を設立した方々は、前のトピックにご紹介したレステッリさん、スペラーティさんの他にも何人かご健在ですが、現在はそれぞれが独自に活動を展開されており、ムナーリ協会としての活動は事実上スペラーティさん個人の活動になっているようです。
いささか複雑な事情があるようですが、結果的に協会が立ち上げた「ムナーリ・メソッドⓇ」の研修や認定もスペラーティさんが一手に引き受けているようで、イタリアにおけるムナーリの教育の継承が今後どのようになっていくのか不透明な印象もあります…
(「スタジオ・」ではなく「スタジオ…」となっているのには、何か意味があるのかもしれません)
「スタジオ…ブルーノ・ムナーリ」
スペラーティさんは数年前にも日本のTV番組を通じてムナーリ・メソッドⓇのワークショップを日本で実施されていました。
ムナーリ本人のワークショップに長年協力し、ムナーリ没後に協会を設立した方々は、前のトピックにご紹介したレステッリさん、スペラーティさんの他にも何人かご健在ですが、現在はそれぞれが独自に活動を展開されており、ムナーリ協会としての活動は事実上スペラーティさん個人の活動になっているようです。
いささか複雑な事情があるようですが、結果的に協会が立ち上げた「ムナーリ・メソッドⓇ」の研修や認定もスペラーティさんが一手に引き受けているようで、イタリアにおけるムナーリの教育の継承が今後どのようになっていくのか不透明な印象もあります…
444.ムナーリ・メソッド・ワークショップのアーカイブ設立 ― 2025年05月11日 20:25
ムナーリのワークショップを1980年代から没後の今日まで受け継いできたベバ・レステッリさんのワークショップ活動のアーカイブが、2025年5月、ミラノ郊外の町アッビアーテグラッソにあるペル・レッジェレ財団に、正式に寄贈されました。
Donazione alla Fondazione Per Leggere del laboratorio di Beba Restelli condotto secondo il metodo Bruno Munari® ブルーノ・ムナーリ・メソッド®によるベバ・レステッリのワークショップがペル・レッジェレ財団に寄付される
Con indescrivibile emozione ho da poco sottoscritto a Milano dinnanzi al notaio Lorenzo Colizzi l’atto di donazione a Fondazione Per Leggere del Laboratorio di Beba Restelli, condotto secondo il Metodo Bruno Munari®
Grazie a questa donazione di inestimabile valore culturale, nei prossimi mesi trasferiremo presso la nostra sede di Palazzo Cittadini Stampa a Castelletto di Abbiategrasso questo luogo di ricerca, di creatività, di conoscenza, di sperimentazione, di scoperta e di autoapprendimento attraverso il gioco
私は今、ミラノの公証人ロレンツォ・コリッツィの前で、ブルーノ・ムナーリ・メソッド®によるベバ・レステッリのワークショップをPer Leggere財団への寄贈する証書に署名した。
計り知れない文化的価値を持つこの寄贈のおかげで、私たちは今後数ヶ月のうちに、この研究、創造性、知識、実験、発見、遊びを通しての自己学習の場を、カステッレット・ディ・アッビアーテグラッソのパラッツォ・チッタディーニ・スタンパの私たち財団施設に移管される。
Sarà il luogo privilegiato del “fare per capire”, dove si fa “ginnastica mentale” e si costruisce il sapere. Sarà anche un luogo di incontro educativo, formazione e collaborazione. Uno spazio dove sviluppare la capacità di osservare con gli occhi e con le mani per imparare a guardare la realtà con tutti i sensi.
そこは「理解するために行動する」特権的な場所であり、「頭の体操」が行われ、知識が構築される場所である。また、教育的な出会い、トレーニング、コラボレーションの場でもある。五感を使って現実を見つめることを学ぶために、自分の目と手で観察する能力を養うことができる空間である。
Saremo custodi attivi per realizzare i desideri di Beba Restelli, che qui trascrivo integralmente:
私たちは、ベバ・レステッリの遺志を実現するために、積極的な保護者となるだろう。
レステッリさんとはこの数年直接お目にかかってムナーリの教育について詳しく教えて頂いているのですが、このアーカイブについても準備のお話は聞いており、このたび正式にアーカイブが移管されて今後一般に何らかのかたちで公開されたり、新たなワークショップの拠点となる見込みとのことです。
ムナーリを直接知る世代の方々から、次世代の創造的な教育を目指す人たちへのバトンが受け渡されつつあると、期待していきたいものです。
Donazione alla Fondazione Per Leggere del laboratorio di Beba Restelli condotto secondo il metodo Bruno Munari® ブルーノ・ムナーリ・メソッド®によるベバ・レステッリのワークショップがペル・レッジェレ財団に寄付される
Con indescrivibile emozione ho da poco sottoscritto a Milano dinnanzi al notaio Lorenzo Colizzi l’atto di donazione a Fondazione Per Leggere del Laboratorio di Beba Restelli, condotto secondo il Metodo Bruno Munari®
Grazie a questa donazione di inestimabile valore culturale, nei prossimi mesi trasferiremo presso la nostra sede di Palazzo Cittadini Stampa a Castelletto di Abbiategrasso questo luogo di ricerca, di creatività, di conoscenza, di sperimentazione, di scoperta e di autoapprendimento attraverso il gioco
私は今、ミラノの公証人ロレンツォ・コリッツィの前で、ブルーノ・ムナーリ・メソッド®によるベバ・レステッリのワークショップをPer Leggere財団への寄贈する証書に署名した。
計り知れない文化的価値を持つこの寄贈のおかげで、私たちは今後数ヶ月のうちに、この研究、創造性、知識、実験、発見、遊びを通しての自己学習の場を、カステッレット・ディ・アッビアーテグラッソのパラッツォ・チッタディーニ・スタンパの私たち財団施設に移管される。
Sarà il luogo privilegiato del “fare per capire”, dove si fa “ginnastica mentale” e si costruisce il sapere. Sarà anche un luogo di incontro educativo, formazione e collaborazione. Uno spazio dove sviluppare la capacità di osservare con gli occhi e con le mani per imparare a guardare la realtà con tutti i sensi.
そこは「理解するために行動する」特権的な場所であり、「頭の体操」が行われ、知識が構築される場所である。また、教育的な出会い、トレーニング、コラボレーションの場でもある。五感を使って現実を見つめることを学ぶために、自分の目と手で観察する能力を養うことができる空間である。
Saremo custodi attivi per realizzare i desideri di Beba Restelli, che qui trascrivo integralmente:
私たちは、ベバ・レステッリの遺志を実現するために、積極的な保護者となるだろう。
レステッリさんとはこの数年直接お目にかかってムナーリの教育について詳しく教えて頂いているのですが、このアーカイブについても準備のお話は聞いており、このたび正式にアーカイブが移管されて今後一般に何らかのかたちで公開されたり、新たなワークショップの拠点となる見込みとのことです。
ムナーリを直接知る世代の方々から、次世代の創造的な教育を目指す人たちへのバトンが受け渡されつつあると、期待していきたいものです。
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