409.駒形克己さん(追悼)2024年04月03日 11:10

駒形克己さん
2024年3月末にグラフィックデザイナーの駒形克己さんが亡くなられたとの報がありました。
駒形さんは2007年の板橋区立美術館でのムナーリ展会場デザインを担当されていましたが、絵本のデザインなどにムナーリとつながる要素があって、イタリアでも高く評価されたデザイナーでした。
2010年雑誌に駒形さんがムナーリについての思い出を語られているものがあったので、一部を紹介して謹んでご冥福をお祈りいたします。

私がムナーリに出会ったのは、1980年の初頭で、まだニューヨークにいたときでした 。
日本では「本に出あう前の本」と訳されている『プレ・ブックス」という12冊のセットになった小さな本を偶然書店で見つけました。
これは子どもたちが、いわゆる一般的な本に出会う前に、本そのものの概念を直感的に体験で きるものです。
しかし初めて見たときは、とても子どもに向けた本には思えませんでした。
それは俗に言う、可愛らしくも子どもらしくもなかったからです。どうして、こういうものをつくったんだろうと思いました 。
でも、その時はその程度の関心で、しばらくは本棚にしまって いたのですが、娘が生まれたときに試しに取り出して渡したところ、これが、とてもよく遊び、すぐボロボロになってしまいました。
それで、 なぜなんだろうと改めて考えました。
そして分かったことが、ムナーリは、子どもの好奇心を引き出す道具として本をつくり、遊びながら学習体験が得られる工夫を所にちりばめていたのです。
たとえば 「プレ・ブックス』の中には、猫の尻尾のようなものが貼付けてある黒いフェルトの本があります。
現在は動物愛護上の問題からフェイクの毛が使 用されているようですが、当初のものは本物の動物の毛でした。
子どもはどうするかというと、 当たり前のようにそれを掴んでグッと引っぱります 。それはそうですよね。
何と言っても子どもは好奇心にあふれてま すから、自分で確かめずにはいられない。
けれども、もし実際に猫の尻尾をいきなり引っぱったとしたならば、逆に猫に引っ掻かれちゃうかも知れませんよね(笑) 。
ムナーリはそんな子どもの好奇心を壊さないように、むしろ安全な手段によって、子どもが実物の猫と向き合う前に 尻尾の感触を本の中で体験させてくれるのです。
さらに言うと、それは子どもに限ったことではないですよね 。 大人にとっても好奇心を持続する工夫が必要になります。
ムナーリは、いわゆる未来派のアーティストでしたが、次第にデザイン的な分野を先駆的に切り開いた人でもあります。
つまり「人と共有する」という手法を、デザインの中に見出していったのだと思います。
私がムナーリから受けた影響は、決して独りよがりの表現ではなく、むしろ表現を通して、ヒトと共有し共感することの大切さを学べたことだと思っています。

「美育文化」2010 11月号
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こちらにもいろいろ紹介しています(重複有)https://fdl-italform.webnode.jp/

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