408.レステッリさんの新刊イベント@ミラノ2024年04月02日 10:52

出版イベント
2024年2月にミラノでお会いしたムナーリのお弟子さん、レステッリさんが昨年上梓された、ムナーリのメソッドによるワークショップの本の最新刊「ヒモで遊ぼう(GIOCARE CON FILI)」の出版イベントが4月4日におこなわれるそうです。
著者レステッリさんと、ミラノ・ビコッカ大学のズッコリ教授によるトークがあるとのこと。
パルマのムナーリ展ともども行きたいのはやまやまですが…(泣)

409.駒形克己さん(追悼)2024年04月03日 11:10

駒形克己さん
2024年3月末にグラフィックデザイナーの駒形克己さんが亡くなられたとの報がありました。
駒形さんは2007年の板橋区立美術館でのムナーリ展会場デザインを担当されていましたが、絵本のデザインなどにムナーリとつながる要素があって、イタリアでも高く評価されたデザイナーでした。
2010年雑誌に駒形さんがムナーリについての思い出を語られているものがあったので、一部を紹介して謹んでご冥福をお祈りいたします。

私がムナーリに出会ったのは、1980年の初頭で、まだニューヨークにいたときでした 。
日本では「本に出あう前の本」と訳されている『プレ・ブックス」という12冊のセットになった小さな本を偶然書店で見つけました。
これは子どもたちが、いわゆる一般的な本に出会う前に、本そのものの概念を直感的に体験で きるものです。
しかし初めて見たときは、とても子どもに向けた本には思えませんでした。
それは俗に言う、可愛らしくも子どもらしくもなかったからです。どうして、こういうものをつくったんだろうと思いました 。
でも、その時はその程度の関心で、しばらくは本棚にしまって いたのですが、娘が生まれたときに試しに取り出して渡したところ、これが、とてもよく遊び、すぐボロボロになってしまいました。
それで、 なぜなんだろうと改めて考えました。
そして分かったことが、ムナーリは、子どもの好奇心を引き出す道具として本をつくり、遊びながら学習体験が得られる工夫を所にちりばめていたのです。
たとえば 「プレ・ブックス』の中には、猫の尻尾のようなものが貼付けてある黒いフェルトの本があります。
現在は動物愛護上の問題からフェイクの毛が使 用されているようですが、当初のものは本物の動物の毛でした。
子どもはどうするかというと、 当たり前のようにそれを掴んでグッと引っぱります 。それはそうですよね。
何と言っても子どもは好奇心にあふれてま すから、自分で確かめずにはいられない。
けれども、もし実際に猫の尻尾をいきなり引っぱったとしたならば、逆に猫に引っ掻かれちゃうかも知れませんよね(笑) 。
ムナーリはそんな子どもの好奇心を壊さないように、むしろ安全な手段によって、子どもが実物の猫と向き合う前に 尻尾の感触を本の中で体験させてくれるのです。
さらに言うと、それは子どもに限ったことではないですよね 。 大人にとっても好奇心を持続する工夫が必要になります。
ムナーリは、いわゆる未来派のアーティストでしたが、次第にデザイン的な分野を先駆的に切り開いた人でもあります。
つまり「人と共有する」という手法を、デザインの中に見出していったのだと思います。
私がムナーリから受けた影響は、決して独りよがりの表現ではなく、むしろ表現を通して、ヒトと共有し共感することの大切さを学べたことだと思っています。

「美育文化」2010 11月号

410.ムナーリ展のカタログ2024年04月08日 22:40

ムナーリ展の図録2024
イタリアのパルマ郊外で6月まで開催されている史上最大のムナーリ回顧展の図録、その名も『ブルーノ・ムナーリすべて(Bruno Munari Tutto)』がイタリアamazonに出ていました。

Bruno Munari Tutto

ムナーリの著作権管理をほぼ独占しているコライーニからの発行かと思いきや、今回のカタログは違う出版社のようです。
日本からでも送料を追加すれば購入可能なはずですが、なにしろ今は円安なので、様子を見ながらポチろうかと思案しています…

411.ムナーリの人新世(20世紀の化石)2024年04月14日 19:49

ミラノの「スパツィオ・ムナーリ」ではムナーリの新しい企画展がはじまったそうです(MUNARIAのミケーラさんが教えてくれました)。

ムナーリが1950-60年代に発表したアート作品「二十世紀の化石(Fossili del 2000)」を中心にした展示で、展覧会の題名「BRUNO MUNARI ANTROPOCENE」とは「ムナーリの人新世」という意味になります。
ウィキによれば「人新世とは、人類が地球の地質や生態系に与えた影響に注目して提案されている地質時代における現代を含む区分である。人新世の特徴は、地球温暖化などの気候変動、大量絶滅による生物多様性の喪失、人工物質の増大、化石燃料の燃焼や核実験による堆積物の変化などがあり、人類の活動が原因とされる。」と説明されています。

作品は電子部品などの部品がアクリルブロックの中に封入されたもので、現代社会が生み出す「ゴミ」が未来の化石になるだろう…というムナーリの皮肉が込められているようです。

展覧会場の解説パネルの一部内容を、ざっくりと紹介してみます。

Non ci si pensa mai, tanto siamo ossessionati dal presente, ma già ora, qui, noi siamo materia in fieri per gli archeologi del futuro. Siamo un primate africano di grossa taglia comparso sul pianeta Terra solo duecento millenni fa, Sono passate soltanto 8000 generazioni, 8000 passaggi di madre in figlio, da quando i primi pionieri della specie "Homo sapiens" cominciarono a migrare nel mondo, Eppure, abbiamo già lasciato tracce che rimarranno per milioni di anni, Siamo i fossili di domani.
今ここでさえ、私たちは未来の考古学者にとって重要な存在なのだ。 私たち、つまりわずか200万年前に地球上に出現したアフリカの大型霊長類「ホモ・サピエンス」という種の最初のパイオニアが世界中を移動し始めてからわずか8000世代、8000の親子の交代しか経ていないが、私たちはすでに何百万年も残る痕跡を残している、私たちは未来の化石なのだ。
Negli strati geologici dell'Antropocene, gli studiosi di un futuro remoto dissotterreranno una poltiglia indifferenziata di plastiche e transistor, micro-chip, valvole radio, bulloni e lattine, ceramiche e bronzi, acciai, vetri, asfalti e cementi, gas serra, isotopi radioattivi, cattedrali e grandi muraglie, montagne di ossa di polli, ovini, suini e bovini, Oggi poi, mentre l'orologio dell'apocalisse sfiora pericolosamente la sua Ora X, stiamo alacremente lavorando alla nostra auto-candidatura come soggetti di un'archeologia post-umana. 遠い未来の学者たちが、人新世の地層からプラスチックやトランジスタ、マイクロチップ、無線バルブ、ボルトやブリキ缶、セラミックやブロンズ、鋼鉄、ガラス、アスファルトやセメント、温室効果ガス、放射性同位元素など、未分化のドロドロしたものを発掘するだろう、 黙示録の時計が危険なX時刻に近づいている今日、私たちはポスト・ヒューマン考古学の対象として自分たちの候補者探しに奔走しているようだ。 Ma non sarà facile finire in un Museo alieno. Ammirando questi geniali e visionari reperti artistici combinatori di Bruno Munari, vien da pensare a quanta fortuna ci vuole per diventare campioni per archeologi. Non basta il metacrilato, La tecnologia invecchia presto e il futuro di questi oggetti immaginati nel 1959, ovvero l'anno 2000, per noi è già un passato vintage.
しかし宇宙人たちの博物館にたどり着くのは容易なことではない。ブルーノ・ムナーリの独創的で先見の明のある芸術的な組み合わせの人工物を眺めていると、考古学者のチャンピオンになるにはどれほどの幸運が必要なのだろう?と思わせられる。メタクリル酸塩だけでは不十分で、技術はすぐに古くなり、1959年に想像されたこれらのオブジェの未来だった2000年は私たちにとってはすでに骨董品の過去だ。

Sul lungo periodo, solo una combinazione altamente improbabile di fattori di conservazione e sedimentazione permetterà a un artefatto umano o a un nostro ossicino di essere studiato dai paleontologi del futuro lontano.
長い目で見れば、遠い未来の古生物学者が人間の遺物や小さな骨を研究できるようになるのは、保存と堆積の要因の極めてありえない組み合わせだけだ。
Sarà davvero un privilegio, perché poi quelle menti postume si interrogheranno costruttivamente su ciò che circonda quel fossile, sul suo enigmatico significato, sulla sua origine incerta e l'uso ignoto, Soprattutto, proporranno ricostruzioni teoriche su ciò che non lascia tracce: le parole e i pensieri di popoli sconosciuti. Proprio come succede quando ciascuno di noi, liberamente, riempie di senso una scrittura illeggibile o un collage di Munari, rendendoli opera collettiva.
それは実に特権的なことだろう。なぜなら遺された未来の人々は、その化石を取り巻くものやその謎めいた意味、不確かな起源、未知の用途について建設的な疑問を投げかけ、とりわけ痕跡を残さないもの:未知の民族の言葉(※ムナーリの別の作品タイトル)や思考について理論的な再構築を提案するからだ。私たち一人一人が読みにくい手書き文字やムナーリのコラージュに自由に意味を込めてコレクティブな作品にするのと同じように。 Noi infatti abbiamo immaginazione e fantasia, quelle che mancano ai virus e agli asteroidi, Facciamo esistere quel che prima non c'era e possiamo sceglierci un futuro diverso. Il meglio che possiamo fare dunque, in mezzo a tutta questa evanescente incertezza e alla finitudine che ci accomuna, è salvarci mantenendo vivo il Museo immaginario di Munari stesso, archeologia gioiosa della creatività di "Homo sapiens"!
私たちは、ウイルスや小惑星がもっていない想像力とファンタジーをもっていて、 以前には存在しなかったものを存在させ自分たちのために異なる未来を選択することができる。この儚い不確実性と私たちを結びつける有限性の中で、私たちにできる最善のことはムナーリ自身のイマジナリーミュージアムを存続させ、「ホモ・サピエンス」の創造性を楽しく考古学することによって私たち自身を救うことなのだ!
Telmo Pievani, 2024
(テルモ・ピエヴァーニ:イタリアの若手哲学者)
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イタリアの芸術家+デザイナー+教育者、ブルーノ・ムナーリのことなどあれこれ。
こちらにもいろいろ紹介しています(重複有)https://fdl-italform.webnode.jp/

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