372. 林健造のムナーリ論2023年01月15日 23:06

「教育美術」1965年9月号に紹介された教育者・林健造さんのムナーリについての考察の一部を紹介します。

 ムナーリの造形については,いろいろな角度から、いろいろな見方もあろう。
 私は、特に次のような角度からその特徴をあげてみた。
 1.全体性の造形 2.動きの造形 3.ヒューマンな味わい 4.機能の詩人  ムナーリ自身、有用性のために自分の発想を造形する場合と、主として造形の原理的なものを追求する場合の二つの行き方があるというのみで、とくに自分の仕事を分類したがらなかったのであるが、このことでも解るように彼は、造形芸術のいろいろなジャンルにわたる仕事をしても、むりに分類する形でなく、統合された全体の姿の中にムナーリの造形の姿勢というものを打出そうと努力したのであろう。
 このことは、われわれのしている子どもの造形教育とか、デザイン教育とかのあり方に、大へん意味のある示唆を投げかけてくれている。
 2番目に、彼の造形には、さかんに動きや時間をとり入れているという特徴である。
 1930年、23才にしてムナーリは"音を出す動く彫刻" を発表している。  この彼のアイデアは、少なくとも「未来派」に大きく影響されているのではなかろうか。時間と動きへの強い欲求、機能・メカニズムに対する多元的な造形理解などミラノ生まれの彼をとりまく、イタリアの土壌に育った未来派を基盤として生成したものであろう。
 3番目には、彼の作品のヒューマンな味わいである。
 彼の造形は、見ていて、その美しさに感嘆し、できばえに驚嘆するといったものではない。 この展覧会を見ても正直のところ、われわれときわめて身近かなものを感じたし、”なーんだこんなこと" とも思ったのである。事実友人たちとも話したが、あの程度のアイデアならなどと力んでもみたのである。
 これは私、あるいは私たちの生意気からではなく、ことほどさように思わせるくらい身近かに、にこやかに話しかけてくるのである。 ちょうど、親しいオジサンが話しかけてくると、こっちもついその気になるようなものである。
 4つ目はいわば "語りかけてくるデザイン" であるという点である。 機能にいろいろ彩りをつけた従来のデザインの形ではなく, 機能そのものを詩語としてとらえているデザインの表現性である。
 彼が造形するとき、その有用性をいかす造形言語そのものがすでにムナーリ自身の詩語の組み合わせに基ずいているとでもいう方がよいかもしれない。
 このことも、造形教育の世界における、デザインの造形の言語性という問題をも一度考えなおすよいヒントになるようである。


林さんの感想は、ムナーリが当時日本に紹介されたばかりとは思えないほど、ムナーリの特徴をよく捉えています。
あらためて、当時の日本の美術家や教育者たちの中には広い視野をもって美術教育を考えていた人たちがいたことに感銘を受けます。

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