382.訃報2023年06月02日 05:47

イタリアのブルーノ・ムナーリ協会(ABM)のSNSで、ムナーリの初期ワークショップ協力者の一人だったコカ・フリジェリオさんが亡くなったと報じられていました。

この方はムナーリのブレラ美術館での最初のワークショップ(1977)以来ムナーリの教育活動に協力しただけでなく、その後はレッジョ・エミリアで教師たちに劇あそび(人形劇?)の指導などもされていたようです。
ムナーリが監修した表現教育に関する本の著者として、また独自の絵本やアートワーク活動などでも活躍していました。
ご冥福をお祈りします。

381.『イタリア語辞典別冊付録』60周年2023年05月14日 21:01

「イタリア人は両手を縛られるとしゃべれない」という笑い話?があって、要するにハンドサインや身ぶり手ぶりなしには、おしゃべりができない人たちなのだ、ということなのですが、確かにイタリア人の会話にはいろいろなハンドサインがつきものです。
この癖はかなり古くから認知されていたようですが、ムナーリは1963年に『イタリア語辞典別冊付録』と題してポピュラーなハンドサインを集めた本を作っています。
2023年は同書の出版60周年ということで、コッライーニ書店が記念のイベントをミラノで開催したという記事がイタリアの美術ジャーナルに紹介されていました。
ムナーリはこの本だけでは飽き足らず、1991年にハンドサインをフォークで表現した『ムナーリのフォーク』という本まで出しています…。

379.ムナーリの「本を着る服」2023年04月14日 06:07

「本を着る服」
ここ数年はコロナ・パンデミックの影響で開催時期が不規則だったミラノ・サローネ(国際家具見本市)が、以前と同じ4月に開催されるようです(2023年は4月18日から23日)。
かつてはデザインの仕事で毎年詣でていたのですが、振り返るともう10年以上のご無沙汰になってしまいました。
残念ながら今年も渡伊はかないませんが、ムナーリの著書を数多く出版しているコッライーニ社が、家具メーカーでないにも関わらず見本市にブックショップのブースを出展するそうです。
厳密にはサローネと同時期に隔年開催されるユーロルーチェ(国際照明器具見本市)のエリアでの出展、とのことですが、面白い試みだと思います。
何よりも展示の目玉が、ムナーリのデザインした「本を着る服(ベスト)」というのが興味深いところで、おそらくムナーリのスケッチを実際に着られる物として作ってみた、ということなのでしょう。

Quando nel 1992, in occasione della Fiera di Belgioioso, Maurizio Corraini ha chiesto a Bruno Munari di progettare un espositore che potesse far vedere i libri, Munari ha fatto un gilet. Quest'anno Corraini compie cinquant'anni e ci piaceva tra le varie cose cogliere l'occasione di rimettere in produzione questo progetto a cui teniamo molto e che adesso ricostruiamo grazie all'aiuto di Lenzing e in collaborazione con Blue of a Kind.
1992年のベルジョイオーゾの見本市の際マウリツィオ・コッライーニ(※コッライーニ社の創業者、ムナーリの友人)はブルーノ・ムナーリに本を見せるディスプレイのデザインを依頼し、ムナーリはこのベストを作りました。今年、コッライーニは設立50周年を迎えますが、私たちはこの機会に私たちが特に大切にしているこのプロジェクトを、レンツィング(Lenzing)の協力とブルー・オブ・ア・カインド(Blue of a Kind)とのコラボレーションにより、リプロダクションしたいと考えています。

https://www.cieloterradesign.com/editorial/milan-design-week/2023/pietro-corraini-al-b-b1c9e0
アクセス:2023.04.13.
もしかしたら、商品として販売されるのかもしれません。。。

375.芸術とデザインから教育へ2023年02月25日 22:42

「Grafica & Disegno」20号(1996)
ムナーリの特集記事が組まれたイタリアのデザイン雑誌「Grafica & Disegno」20号(1996)の資料を発見しました。
ムナーリの没年は1998年ですから、最晩年の記事と言って良いでしょう。
ムナーリの芸術家・デザイナー・教育者としてのムナーリの姿を編集長自身が分かりやすく解説していて、ムナーリが時代と社会の変化の中で、なぜ子どもの教育へ力を注ぐようになったのかを示唆する内容になっていましたので、その一部分をご紹介します。

Nel 1947 Milano é ancora ingombra di macerie. Anche delle arti del regime. Ma mentre la critica si attarda sul “chiarismo lombardo” o comincia a destreggiasi sulle tematiche del “realismo sociale” due artisti “concretisti” svizzeri, Max Huber e Max Bill, danno vita a una grande mostra d’arte con opere di Klee, Kandinsky’, Arp mettendole accanto a italiani come Veronesi, Rho, Sottsass jr e lo Stesso Munari. In pratica aprono la strada al concretismo italiano. L'anno dopo Saldati, Munari, Dorfres e Monet fondano il Movimento Atte Concreta. E’ il MAC, che tenta di portare avanti il concetto di “sintesi delle arti” e di riconciliare Industrial design, architettura e arti visive. In questo movimento Munari ha un ruolo di primo piano e ne sarà presidente nel 1953. L'esperienza si concluderà nel 1958 dopo alterne Vicende. Ma fin dall'inizio nel Movimento aleggia una domanda: come pretendete che il pubblico si interessi di movimenti pittorici o plastici quando è abituato a vedere tutto concretamente risolto al cinema, nella pubblicità, nei grandi Spazi reclamistici delle fiere internazionali… l' arte dunque morta o ha cambiato aspetto senza che molti Se ne accorgono?
La risposta del MAC non era la fine dell'arte, bensi’ un cambio di indirizzo. “… è qui che va cercata. Al vecchio non risponde più”.
1947年(第二次大戦後)のミラノは、まだ瓦礫で散らかっていました。(ファシズム)政権の芸術もまた同じでした。しかし批評家たちは「ロンバルディア・キアリスモ」(※1930年代ミラノで生まれた絵画芸術運動)にこだわり、また「社会的リアリズム」のテーマに向かう中で、マックス・フーバーとマックス・ビルという2人のスイス人の「具体主義」芸術家が、クレー、カンディンスキー、アルプの作品を集めた大きな美術展を企画し、そこにベロネージ、ロー、ソットサスJr、そして同じくムナーリといったイタリアの芸術家たちの作品を並べました。実際、彼らはイタリアの具体主義の道を開いたのです。翌年、サルダーティ、ムナーリ、ドルフレス、モネの4人は、「具体芸術運動」(※MAC)を設立しました。これは「芸術の総合」という概念を継承して工業デザイン、建築、視覚芸術を調和させようとするもので、MACと呼ばれました。ムナーリはこの運動で主導的な役割を担い、1953年にはその会長に就任しています。この活動は紆余曲折の後、1958年に終了しました。しかしこの運動には、始めからある疑問が漂っていました:映画や広告や国際見本市の巨大な広告の世界ですべてが具体的に解決されるのを見慣れている大衆が、どうして絵画や造形運動に関心を持つと期待できるのか…したがって、芸術は死んだか、人々が気づかないうちに姿を変えてしまったのか…? MACの出した答えは、アートの終焉ではなく方向性の転換でした。「…こっちが(新たに)探されるべき場所なのだ。古いものはもう応えてくれない」。
Il suo invito ai colleghi è chiaro in un articolo dal titolo "L'Arte è un mestiere". "Uscite dallo studio - scrive nel 1950 - e guardate le strade, quanti colori stonati, quante vetrine potrebbero essere più belle, quante insegne di cattivo gusto, quante forme plastiche sbagliate… Perchè non intervenire? Perchè non contribuire a migliorare l'aspetto estetico del mondo nel quale viviamo assieme al pubblico che non ci capisce e non sa che farsene della nostra arte? "Pensate quanto ci sarebbe da fare, quanti oggetti, quante cose aspettano intervento dell'artista…”
彼が仲間に呼びかけたことは、「芸術としてのデザイン」と題された文章の中に明確に表されています。「工房から出て - 1950年に書かれたものです - 、街を見よう、どれだけ調和のない色があるか、どれだけもっと美しくできるショーウィンドウがあるか、どれだけ趣味の悪い看板が存在するか、どれだけ間違ったプラスチックの形があるか…なぜそこに介入しないのか? 私たちを理解せず、私たちのアートをどう扱っていいかわからない一般の人たちと一緒に、私たちの住む世界の美観を向上させることに貢献しようではないか?」 「どれだけやるべきことがあるか、どれだけアーティストによる介入を待っているものがあるか、考えようではないか…」。

この記事では深く触れられていませんが、ムナーリが1950〜60年代にアートとデザインを通じて世の中の消費主義の暴走に歯止めをかけようとする試みはあまり成功しなかったようです。
その幻滅が、ムナーリを子どもへの希望とその創造性を育む教育へと向かわせた、とアルド・タンキスはムナーリの作品集の中で分析しています。

374.アンコーナの美術館の映画2023年02月21日 17:23

これまでムナーリの本を日本に紹介してこられた編集者の方から「手でふれてみる世界」という映画について教えていただき、東京・田端のミニシアターで鑑賞してきました。
直接的にはムナーリは関係していない内容の映画ですが、映画で紹介されているアンコーナのオメロ国立触覚美術館とは、2020年にムナーリとモンテッソーリの合同企画展が開催されたミュージアムです。
ムナーリは「触覚のワークショップ」以外にも「目の見えない少女のための手紙」という触って「読む」オブジェを作っていますし、映画の中にもムナーリの展覧会の様子がちらっと紹介されています。
目の見えないご夫婦が作り上げたというこのミュージアムでは、すべての展示作品(主にイタリアの古今の彫刻作品のリプロダクションのようです)を触って鑑賞することができるそうです。
美術館は視覚に障害のある人たちに対して門戸を閉ざしている、という指摘は、確かにそうかもしれません。イタリアではオメロ美術館とローマのパラティーノ美術館だけが作品のほとんどに触れることができるそうですが、それ以外の美術館でも触って作品を鑑賞する試みは広がっているようです。
映画の最後にはペーザロの広場にあるベンチと一体化した彫刻作品に触れながら、オメロ美術館館長のグラッシーニさんと彫刻家のヴァンジさんが「アートは人々の(生活する空間の)中にあるのが良いのです。特に子どもたちは、生活の中で美に触れるべきです」という会話を交わしていました。
美を感じること、生の喜びを感じることは、障害のある人にとってもそうでない人にとっても大切なことだと感じる素敵な映画でした。
https://le-mani.com/ (2022年製作/60分/日本)

この映画を監督した岡野さんは静岡にあるヴァンジ彫刻庭園美術館の副館長さんだそうです。ヴァンジ美術館は過去にムナーリの展覧会が開催されたところでもありますが、現在は閉館中で今後の存続が検討されているとのこと。美術館の再開を期待します。

368.具体芸術運動(M.A.C.)2022年12月22日 07:04

M.A.C.
ムナーリは1947年、具体芸術運動(MAC: Movimento Arte Concreta)という芸術運動の結成に参加しています。
この運動には日本でも知られている芸術家ルーチョ・フォンタナやデザイナーのエットーレ・ソットサスなども参加していたようです。
MACの活動を伝える冊子が発行されていたようで、その(Giorgio Maffeiによる)研究書も存在するのですが、ムナーリが第8号の冊子の中でジョン・デューイの著作について評論を発表していることが分かっています。
残念なことに現在国内でこの資料を閲覧する方法が見つかりません。
欧米では古書市場にこの手のコレクションが流通しているのですが、MACの冊子合本のレートが驚くことに5000〜6000英ポンド、80万円超えになることに打ちのめされています…
個人的な備忘のためにリンクをここに記録します;
https://www.abebooks.co.uk/Raccolta-serie-bollettino-arte-concreta-8-15/30950826968/bd

365.「旅の彫刻」の本2022年10月16日 21:11

ムナーリの多くの本を現在も出版しているコッライーニ社から、面白い本が出ていました。
ムナーリの「旅の彫刻」という折り紙細工のような彫刻作品をアメリカのデザイナーDavid A. Carterが「飛び出す絵本」に仕立て直したものです。
国内で取り扱っているネットショップ「フィネサ・ブックス」から購入できたのですが、現在は品切れとのこと。

https://www.fineza-col.com/product/1582

コッライーニ社のウェブページから注文することもできそうです(英語でクレジット決済が可能です)。

https://corraini.com/en/le-sculture-da-viaggio-di-munari.html

364.ムナーリの言葉(『芸術の定義』より)2022年10月10日 05:54

芸術と技法

バッハとオルガン
イエス
バッハとマンドリン
ノー
どの芸術にもそれぞれ(適した)技法がある
どの技法にもそれぞれ(適した)芸術がある
どの時代にも(適した)技法がある

新しい技法
新しい芸術のかたち

芸術は技法ではない
技法は芸術ではない

Arte e tecnica
Organo e bach
si'
mandolino bach
no
ogni arte ha la sua tecnica
ogni tecnica ha la sua arte
ogni epoca ha le sue tecniche

nuove tecniche
nuove forme d'arte

l'arte non e' la tecnica
la tecnica non e' l'arte

ART AND TECHNIQUE

Organ and bach
yes
mandlin and bach
no
each art has its own technique
each technique has its own art
each era has its own techniques

New techniques
new art forms

Art isn’t technique
technique isn’t art

360.Frottage(Magis)2022年04月07日 08:03

Frottage, Magis, D.Guidone
ムナーリの教育玩具に関わるデザインコンペティションを勝ち抜いた子どものためのプロダクトがイタリアで商品化されたそうです。
なんとデザイナーのデニス・グイドーネさんは現在日本で活躍されているとわかりました。なお商品化にはムナーリのお弟子さんだったレステッリさんが協力しています。
https://www.denisguidonedesign.com/

このプロダクトは「フロッタージュ」と名付けられたシリコン製のシートのセットで、表面にはさまざまな凸凹がデザインされていてその上に紙をのせてクレヨンなどでこすると模様が浮かび上がります。
この発想はムナーリが「ブレラ美術館のワークショップ」で「テクスチャー」と名付けて実践したものから生まれたようです。
日本にもショールームのある「Magis(マジス)」から商品化され、2022年現在青山のショールームでも現物を見ることができます。

357.「芸術家とデザイナー」2021年06月06日 15:35

「芸術家とデザイナー」
ムナーリの芸術論の本としてはまずまず有名で、かつ邦訳が出ている一冊です。とうの昔に本ブログで紹介しているつもりでいたのですが、どうやら取り上げ忘れていたようなのであらためて取り上げてみました。

https://www.amazon.co.jp/gp/product/4622073293

ムナーリは芸術家でありデザイナーでもありましたが、芸術とデザインそれぞれの境界をムナーリなりに整理して論じています。
実際、ムナーリのアートワークとデザイン(特に工業製品)のアプローチには、かなり違った印象があると思います。
「芸術としてのデザイン」という名著もあるので混乱しますが、ムナーリはくりかえし「デザインとは、芸術とは」という問いについて真摯に考察しつづけた人だったのだと思います。
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イタリアの芸術家+デザイナー+教育者、ブルーノ・ムナーリのことなどあれこれ。
こちらにもいろいろ紹介しています(重複有)https://fdl-italform.webnode.jp/

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