203.さわることの意味(i laboratori tattili-翻訳01)2006年11月13日 22:27

さわることの意味  こどもたちは自分のまわりの世界を理解するために、色々な感覚を組み合わせています。様々な感覚の中でも特に触覚はひんぱんに必要とされる感覚で、見て、聴いて感じたものごとを触ることによって確かめ、自分たちを取り囲む世界を知る色々な手がかりを与えてくれます。  しかし触覚は、「ものごとは見る、聴くことで理解できる」という偏った教育を受けた大人たちから、あまり価値のないもののように扱われています。  読み書き中心の教育を受けた私達多くの大人、また様々な学校の先生達は、こどもたちが直接自分で触ったり試したりして何かを発見する、という学び方の代わりに、言葉や、すでにできあがっている見て触れる見本を使った教え方をしがちです。  視覚に訴える教育法やコミュニケーション教育は学校でもすでに始まりました。しかし触覚を使った教育はいまだ真剣に考えられてはいないのです。  しかし、もしも私達が一人ひとりの感覚のバランス(総合性)を保とうと考えるなら、多くの現象を理解するための直接的で重要な感覚として、触覚についてよく考える必要があるはずです。実際、わたしたち大人は「触わって感じる力」を失ってしまっているか、あるいは極めてわずかしか触覚を用いていません。例えば服を買いに行くときにだけ、布地に触れて「この生地の手触りは?」というくらいで、あとはほとんど蔑ろにしている、という訳です。  最近は、多くの病院で生まれたばかりの赤ちゃんを母親の胸の上に裸のまま触れあうように抱かせて落ち着かせる、ということをしています。実際、触ると言うことは指先でなでるだけでなく、身体全体で感じる感覚です。  一方、極端に管理の厳しい病院では、生まれたばかりの赤ちゃん達はすぐさま洗われ、無菌状態にされてガラスの保育器に入れられ、ゴム手袋越しに触られながら金属かプラスチックで出来た道具から栄養を与えられます。触られず、触れあうことなく、人間的な触れあいのないままに。 「触っちゃダメ!」こどもたちはどのくらいこの注意を聞かされていることでしょう。(大人は)だれも、「見ちゃダメ」「聴いちゃダメ」とは言わないのに、触ることについては別で、(こどもが)やってはいけないことだと思っているみたいです。  生まれて数ヶ月になった赤ちゃん達は、はいはいで家の中を動き回ります。冷たい床のタイルを、柔らかいカーペットを、木の床板を、ざらざらした壁を、あちこちに飛び散るちいさなおはじきを、あらゆるものを、自分の羽のように軽い服地を、母親のほっぺたを・・・。そうして、多くのことを学ぶのです。もしもこれらの感覚を、赤ちゃんが実際に触って確かめることなしに言葉だけで伝えようとしたら、それはさぞかし難事業で、なおかつ赤ちゃんはなにひとつ理解できないに違いありません。  わたしたちは、もういちど自然から与えられた感覚をとりもどす必要があると思うのです。多くの母親教室では、こどもたちに見て楽しむおもちゃ(絵本など)を早すぎる時期から与えてしまいますが、こどもたちは触れる事への興味をまだ十分に持っているのです。  あるいはお話を聞かせることで、こどもたちに間接的でゆがんだ、言葉だけの知識を植え付けてしまうかも知れません。それより、箱かバスケットに一杯の色々な素材を集めておき、こどもたちは自由にその中へ手を突っ込んで色々な触感を知り、素材とその質について知ることが出来たらどんなに良いでしょう。  箱一杯のお米(もちろん生の)、箱一杯のおがくず、豆、干しぶどう、器一杯の水、泥、粘土、発泡スチロールの固まりや玉、などなどに触れながら。おのおのが好きなだけ、触りたいものに触り、こどもたちと感じたことについて、それぞれ何が違うのか理解を深めるよう(こどもの理解できる範囲で)話し合ってみたらどうでしょう。干しぶどうと羊毛は、何が違うんだろう?おがくずと砂は?この素材の名前は何だろう?質は?感じたことを説明できるかな?  こどもたちは学び、学んだことを分類し整理しなければなりません。こどもたちにとっては、どんな素材やものにも名前があり、それらを知ることで学んだことを整理し、必要なときに思い出せるようにすることが大切だと言うことです。こうして、言葉のもつ力が、コミュニケーションの役に立つのです。これこそ人格の成長における本質的な節目といえるでしょう。それは、こどもが大人へ成長するための力添えを必要とする瞬間です。老子の言う「無為の行動(特別なことをしないで自然に行動すればものごとはまとまる(←為無為 則無不治のことか?原典のどのフレーズをさすか不明:イタリア語原文ではazione senza impostazione di se')」でしょうか。

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